トラックレーサー

自転車便に欠かせないのが自転車です。メッセンジャーの自転車には固定ギアのトラックレーサーが使われることが多いです。トラックレーサーとは競輪に代表されるトラック競技に使用する自転車で、「ピスト」や「ピストレーサー」と呼ぶこともあります。同様に舗装路の高速走行を目的としているロードバイクとは共通点が多いのですが、トラックレーサーは変速機を持たず固定ギアとなっているのが特徴です。また純粋なトラックレーサーにはブレーキが付いていません。

トラックレーサーの造り

基本的にトラックレーサーはロードバイクよりもシンプルな構造になっています。また競技用自転車としてはトラックレーサーはトラック競技がなかった時代からの最も古い形態でもあります。なお、トラック競技と競輪は厳密には違うものなので、使われる部品も競輪用の自転車とは少し違っています。

フレーム

競輪ではクロムモリブデン鋼など鋼材を使用したフレームしか用いられませんが、一般的にはカーボンコンポジットやアルミなども用いられます。特に世界選手権ではカーボンフレームが主流となっています。カーボンフレームは柔らかくて軽いのが最大のメリットなのですが、その反面、転倒や風で自転車が倒れた程度でもフレームが折れてしまうこともあります。しかし、近年はパイプ同士を直接接着しカーボンコードで巻いて加工するといった「パイプ・トゥ・パイプ製法」が生み出され、カーボンの最大の弱点であった強度の問題を克服しつつあります。

車輪

トラックレースは屋外の競技場で行う場合もありますが、屋内の板張りトラックで行うことが多いため、非常に細い高圧タイヤを使います。車輪もトップレベルでは前輪に翼断面を持つカーボンアームホイール、後輪にはディスクホイールを使うことが多いです。国際競技などで使われるものの車軸径は前9㎜、後10㎜ですが競技では双方とも8㎜軸を使います。オーバーロックナット寸法(車輪を車体に止める幅)は前100㎜、後110㎜、または120㎜です。ダブルコグとは後ろ車輪の両側に違う大きさの歯車を取り付け、車輪を裏返すことでギア比を変えるものです。練習用に、ダブルコグの片方にフリー機構のついた歯車をつけることがあります。古くは片側に2枚につけられ、必要に応じてチェーン架け替えが出来るものもありました。

ハンドル

ハンドルはいわゆるドロップハンドルの一種ですが、ロードバイクのように長時間乗るため、いろいろな場所を握り、乗る体勢を変えて疲労を防ぐという目的ではなく、ハンドルの下端を握り、最大限の力をペダル、クランクへかけるという目的で使われています。ロードバイクがバーテープというテープ状の滑り止めを巻くのに対し、トラックレーサーは筒状のスリーブをハンドルにかぶせる場合が多いです。ロードバイク用ハンドルバーに水平部分があり「マースバー」と呼ばれるのに対し、トラックレーサー用は水平部がない曲線のみで構成されていて「ピストバー」と呼ばれています。材質も、弱い材料だと使っているうちに金属疲労で折れたりちぎれたりしないとも限らないんので、ロードバイク用は軽量化のためアルミ材が普通であるのに対し、トラックレーサー用は鉄系材料を使用し剛性優先となっています。ダウンヒルバーのようなタイムトライアル専用のハンドルを使用することもあります。

ギア

トラックレーサーはギアがフリーホイール(ペダルを回し続けなくても惰性で進むような機構)ではなく固定ギアとなっていて、ハブに小歯車が固定されているので、走っている間は常にペダルを回さなければなりません。子供用の自転車や三輪車と同じ構造です。固定ギアはペダルの動きと車輪の動きが直結しているため、ペダリングを止めると転倒する危険性があります。また、ペダルを逆転すると車輪も逆転します。

ブレーキ

競技専用のものはブレーキが付いていません。必要な場合は専用のものを別に取り付けることになります。止まる時はペダルを逆に踏んで止まります。ビーチクルーザーなどのコースブレーキとは違い、タイヤと直結したクランクの回転を抑える事で減速及び停止します。日本国内において、保安部品(特に前後ブレーキ)を備えない状態では道路交通法の定めにより公道を走ることはできません。公道用としてピストフレームの後方のシート部に板を挟んで取り付けるタイプのブレーキが販売されています。しかし、公道を走るためには道路交通法、内閣府令により「前車輪及び後車輪を制動する」とされているため、法律を遵守して公道で走るためには大改造が必要になります。ブレーキがない理由は軽量化や構造の簡素化による車体故障の防止だけではなく、最接近して争うトラック競技において走行中のブレーキは即接触となり重大な落車事故に繋がりかねないためです。競技中にゴールしていないのに停まるのは棄権を意味しています。

公道での使用

トラックレーサーは速く走ることに特化した自転車ですが、固定ギアであるためペダルを踏む足で微妙にスピードを調整し、ゆっくり走ることもできます。複雑な変速機構などを持たない非常にシンプルな構造で整備性・耐久性に優れ、メンテナンスが簡単かつ安価に済むという理由から、メッセンジャー達がニューヨークなどで1970年代後半~1980年代にかけてトラックレーサーの使用を開始し、1980年代にはケビン・ベーコン主演で映画化されました。日本国内では法令によりノーブレーキピストの公道走行は禁止されており、またそのような車両にはねられた歩行者が死亡したり重傷を負ったりする事故も相次いで発生しました。法令に違反するのみならず、事故の危険も大きいため、警察は交通違反切符を切る等取り締まりを強化しています。道路交通法の運用方針も改められて自転車の車道走行ルールが明確化されることとなりました。自動車で走行者をはねて死亡させたり重傷を負わせた場合、民事訴訟で数百万~5000万円超の高額賠償を命じる判決が相次ぎ、また主要4地裁の裁判官が「歩行者に原則過失なし」との見解を法律雑誌に掲載しました。