ノーブレーキピストと固定ギア

現在トラックレーサーで公道を走っている人も多くいますが、ブレーキのないいわゆる「ノーブレーキピスト」では、日本の公道は走れない決まりになっています。知らずになんとなく安いからとか、カッコいいからとノーブレーキピストを使ってしまわないように、きちんと知識をつけておきましょう。

ノーブレーキピストとは

ノーブレーキピストは、ブレーキを両輪装備無しの状態で公道にて使用されるトラックレーサーのことを言います。別称としては「ピスト」や「ピストバイク」とも呼ばれています。ノーブレーキピストで日本国内の公道を走ることは、公道を走る際の必須装備である「ブレーキ」を備えていないため、「道路交通法違反(制動装置不良)」となります。実際に2013年11月には、後輪にブレーキがないBMXを公道で乗り回して反則告知を受け、再三の出頭要請を無視した人物が逮捕されています。元となるトラックレーサーは競技場で使用するもののため、ブレーキを装着しないのが基本です。競技場において使用されるトラックレーサーについては、ブレーキが装着されていなくてもノーブレーキピストとは呼びません。また、競輪選手は公道でトレーニングする際にはブレーキ、反射鏡、ライトなどの保安部品を必ず装備することになっています。ノーブレーキピストのベースとして使われるのは専ら競輪選手の放出した中古のトラックレーサーです。ギアは固定ギアで、ブレーキは名前の通り装着されておらず、止まる時はペダルを逆に踏んで止まります。ハンドルはブルホーンバーか、ドロップハンドルのものが多いです。

日本とノーブレーキピスト

トラックレーサーは変速機が無く、また固定ギアを使用するため構造が単純で、整備性や耐久性に優れています。これに注目したアメリカ合衆国の自転車便従事者(メッセンジャー)の一部がニューヨークなどで1970年代後半~1980年代にかけてトラックレーサーを使い始めました。2000年代半ばには日本にも輸入され、ストリートカルチャーの世界で新しい流行として取り入れられました。この流れの中で特に大きな割合を果たしたのが、ニューヨークで数年間メッセンジャーをしていたとされるデザイナーのMADSAKIやDJの藤原ヒロシらのグループでした。加えて、広告業界が一種のファッションとしてノーブレーキピストを肯定的に捉える事例が何件か発生しています。2007年4月9日には、ナイキ社がブレーキを装着していないトラックレーサーを抱えた若者たちが公道に立っている写真に「ブレーキなし。問題なし。Just do it!」というコピーを添えた壁面広告を製作したのですが、違法行為を誘発・是認するものではないかという苦情が殺到し、僅か2日で撤去されました。また、同年8月1日には、マガジンハウス社の雑誌「BRUTUS」にて、ノーブレーキピストが登場する日本マクドナルド社のペイドパブリシティ記事を掲載しました。2008年9月には、蛯原友里が資生堂ANESSAの広告においてノーブレーキピストを小道具に使用しています。なお、旧来のスポーツ自転車愛好家たちは危険な改造を施したトラックレーサーを嫌悪し、自分たちとは違う存在であると主張する人が多いです。

ノーブレーキピストの危険性

ノーブレーキというだけでもかなり危険なのですが、更に危険性が増す装備が広がりを見せていることも問題になっています。トウクリップやクリップレスペダルと違い、脚が固定されないフラットペダルでは制動力がさらに落ちてしまいます。トラックレーサーは逆方向に回転させることでスピードを落としますが、スピードが出過ぎていると充分な訓練をしていてもクランクを抑えきれず体が浮き上がってしまい、転倒に至るという事故も多発しています。特に訓練もせず、ファッション感覚で乗り始めたばかりの場合はなおさら危険です。近年ノーブレーキピストと歩行者の接触が多発しており、2013年7月1日、東京都は自転車安全条例を制定し、その第23条において「自転車小売業者は、自転車の利用が道路交通法その他の自転車の交通又は安全性に関する法令の規定に違反することとなることを知って自転車を販売してはならない。」と定義し、事実上それまでは野放しだったノーブレーキピストの都内での販売を、明確に禁止しました。

固定ギアについて

固定ギアとは、後輪がペダル駆動と直結する自転車の事を言います。トラックレーサーも固定ギアの一種です。ペダルの動きと車輪の動きが直結しているので、一般的な自転車のようにペダルを漕がずとも惰性で動くことが出来ず、走っている間はペダルをこぎ続けなければいけません。急にペダリングを止めたりすると転倒する危険性が高く、固定ギアに乗るには練習が必要です。ペダルを逆転すると車輪も逆転します。この原理で言えばペダリングを徐々に止めたりすれば制動力が効きブレーキの替わりをペダリングである程度補えるのですが、上記のように転倒の可能性があり非常に危険です。実際にペダリングによる制動力はブレーキによるものと比べても弱く、急制動も効かないので歩行者の飛び出しや信号が変わったときのブレーキなどに対応できず、とても危険です。

気を付けなければならないこと。

固定ギアと聞くと、「変速機が付いていない自転車」だと勘違いする人が多いのですが、それは日本では「シングルスピード」と呼ばれており、「固定ギア」とはまた別の自転車となります。固定ギアの自転車は使い方を間違えると非常に危険です。例えばトウクリップなどでペダルに足を固定しないと、回転するクランクに足が接触して大けがを負う可能性もあります。また固定ギアは機構上、チェーンの張りにアソビがあるとチェーンが外れやすくなって危険なためチェーンの張りは可能な限り強い状態にセットされています。このため、間違ってギアに手を挟むと指がちぎれてしまう可能性もあるのです。なお、一部のシングルスピード自転車ではチェーンテンショナーを使ってチェーンの張り具合を保っているものもありますが、固定ギアにチェーンテンショナーを使うのは危険なのでやめましょう。